第22週・第110話は、今シーズン屈指の感動回でした。
半年の時を経て迎えた出産の日。ヘブンさん(トミー・バストウ)が裸足でお百度参りをする姿に、まだ赤ちゃんが生まれてもいないのに目頭が熱くなりました。産婆さんのコミカルな掛け声、司之介さん(岡部たかし)たちの「てっぽう」という謎の安産祈願、そしてトキさん(髙石あかり)の「ありがとう。偉かったけど、よかった」という絞り出すような言葉——全部が重なって、画面の前で泣いてしまいました。
でも、この話はそれだけでは終わりません。喜びに沸く松野家に、正木さん(日高由起刀)が「戸籍」という現実的な問題を投げかけ、ヘブンさんがトキさんに「しっかり結婚しませんか?」と正式プロポーズ。さらに、専属車夫・永見さん(大西信満)の退場まで盛り込まれた、内容の濃い15分でした。
「ばけばけ」第22週第110話 あらすじ
明治25(1892)年11月、あっという間に半年が過ぎ、トキの出産の日がやってきます。ヘブンさんは裸足でお百度参り、司之介・丈・正木の男性陣は「てっぽう」で安産を祈ります。フミ、クマ、産婆さんに見守られながら、ついに男の子が誕生。「ありがとう。偉かったけど、よかった」というトキの言葉と、「おお。おお。おお」としか言えないヘブンさんの姿が胸を打ちます。喜びに包まれる松野家の中、正木さんが「同じ戸籍に入らないと先生とトキさんと三人家族にはなれない」という問題を指摘。ヘブンさんはトキさんに「しっかり結婚しませんか?家族なりませんか」と提案します。さらに専属車夫・永見さんの退場、次週はついに錦織さんの待望の再登場予告も。
「ありがとう。偉かったけど、よかった」——久しぶりの生出産シーンに号泣
第110話で最初に引き込まれたのは、出産シーンの丁寧な描き方でした。
冒頭から「あれからあっという間に半年が過ぎました」というナレーションで一気に時が飛び、すぐにヘブンさんがお百度参りをしている場面へ。裸足で境内を行き来するその姿に、言葉なしでヘブンさんの気持ちがすべて乗っているようで、見ているだけで胸が詰まりました。
裸足のお百度参り——「よき目をもって、この世にきてください」
お百度参りの最中、ヘブンさんが繰り返す言葉が印象的でした。
「よき目をもって、この世にきてください。よき目をもって、この世にきてください。」
片言の日本語ながら、この言葉だけは澄んでいて。生まれてくる命に向けて、祈りを込めて何度も繰り返すヘブンさんの姿は、父親としての覚悟そのものに見えました。
家の中ではフミさんやクマが見守る中、産婆さんが独自のリズムでトキさんを励ます展開に。
「よかよ。よかよか。おトキちゃん、ガンバ。サンバ。」
「サンバさ、サンバ」という謎の掛け声が場の緊張を解きながら、それでもちゃんと応援になっているのが絶妙でした。SNSでは「産婆さんサンバ」と称してこのシーンを称える視聴者の声が相次いでいました。
ヘブンさんがお百度参りからギリギリ間に合って帰宅し、「てっぽう」(柱に向かって安産を祈る動作)に加わる男性陣。産婆さんから
「もう産まれますけん。」
と告げられてもてっぽうの姿勢を崩さない男たちの「役に立っているようで立っていない」まっすぐさが、この家族らしくて微笑ましかったです。
産婆さんサンバが笑えて泣ける——朝ドラ演出の妙
出産が終わり、ヘブンさんが感極まった様子で言った言葉が
「生まれた!母子ともに無事。よう頑張ったたい。」
「ありがとう。素晴らしい。」
でした。産婆さんに対して「ありがとうございます」とお辞儀するヘブンさん。感動の一瞬に笑いを混ぜる脚本の呼吸感が絶妙で、泣きながら笑ってしまいました。
そしてトキさんが絞り出すように言った言葉が、この回のすべてを集約していたと思います。
「ありがとう。偉かったけど、よかった。やけど偉いわ。よかったけど。」
何度も繰り返しながら、言葉が整理できないままに出てきた感じ。「偉かった」と「よかった」が交互に出てきて、それがかえってリアルで。髙石あかりさんの演技の自然さが光っていました。
近年の朝ドラでは出産シーンをぼかしたり省略する傾向がある中、第110話は久しぶりに詳細な生出産描写に挑んでいて、それが視聴者の感動を呼んだ理由のひとつだと思います。
「俺だけ名字だ」——正木の一言から始まる戸籍問題
「おじじじゃぞ。当然じゃろ。」——喜びに沸く松野家
男の子の誕生に沸く松野家。赤ちゃんと対面したヘブンさんが
「おお。おお。おお。」
としか言えなかったのが、言葉より先に感情が溢れた瞬間として胸に刺さりました。SNSでも「Ohしか出て来ない」というヘブンさん自身の自己言及のセリフへの共感の声が多く見られました。
司之介さんが赤ちゃんに向かって「おじじじゃぞ」と話しかけると、フミが「もうおじじですか」とツッコみ、司之介さんが
「おじじじゃ。当然じゃろ。」
と胸を張る。続いて「おばばですよ」とフミさんが返し、司之介さんがヘブンさんを指差して
「なら、ヘブンはパパさんじゃ。」
と宣言する場面は、この家族の温かさが凝縮された瞬間でした。
「異人のような顔の子じゃの」という言葉も、悪意なく率直に驚く地の人らしいセリフで、時代の空気感がよく出ていました。
「父上と雨清水様にもご報告せんとな」という言葉に、いつか松江の人たちのもとに朗報が届くシーンが見たいなと思いながら見ていました。
正木が提起した「家族になれない」という現実
そんな幸せな空気の中、正木さんが静かに切り出したのが「戸籍」の問題でした。
「今思ったんだけど、先生ってイギリス人だよ。」
「だから言ってるだろ」と丈が言いますが、場の空気が一変したのは、次の言葉から。
「いや、私も法律には詳しくないのですが、同じ戸籍に入らないと先生とトキさんと三人家族にはなれないのではないかと、ふと。」
「わかりませんが」と前置きしながら問題の本質をズバリ突いてくる正木さん。このシリーズ通じて、重要な気づきを与えてくれる場面で正木さんが活躍するのは毎度のことですが、今回も見事でした。ここで笑いを一手に引き受けてくれた
「俺だけ名字だ。」
という一言は、場の緊張を和らげながら、それでもちゃんと伏線になっているのが憎い演出だと思いました。
「しっかり結婚しませんか?」——ヘブンのプロポーズと小泉八雲の子孫へつながる伏線
「我々同じ戸籍ない。二人親でなれない。」
正木さんの指摘を受けて、ヘブンさんがトキさんに向き直り、ゆっくりと言葉を選びながら語りかけます。
「しっかり結婚しませんか?」
トキさんが「しっかり結婚?なんですか?しっかり結婚って。」と問い返すと、ヘブンさんは
「戸籍。我々同じ戸籍ない。」
「二人親でなれない。」
と、カタコトながらも真剣に伝えます。そして最後に
「家族なりませんか。」
という言葉で締めた瞬間、全部が繋がりました。神社での誓いはあったけれど、制度として、書類として、「ちゃんと家族になりたい」というヘブンさんの意志が伝わってきて。トキさんの答えも素直で温かかった。
「それは、それは、とても喜びです。」
でも、喜びの後にすぐ訪れる現実。
「あの、ですが。イギリス人、日本人、同じ戸籍入れるんでしょうか。」
「わからない。」
「わからない。」
二人が揃って「わからない」と言い合う場面が、ロマンチックな空気を一瞬で史実の重さへと引き戻しました。この会話に考察欲が止まらなかった視聴者も多かったようです。
史実が示す答え——入夫婚姻と小泉八雲子孫への道
このドラマがモデルとする小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の史実では、長男・一雄の誕生後、八雲は家族を守るため日本国籍取得を決意します。当時はまだ正式な帰化制度(1899年の国籍法)が整備されていなかったため、八雲は妻セツを戸主とする「小泉家」の分家を立て、自ら入夫として入籍する「入夫婚姻」という迂回的な方法で日本人となりました。
これがドラマでいう「同じ戸籍に入る」ことに相当します。八雲が「小泉八雲」と名乗るようになったのもこのとき。名前「八雲」の由来は、セツの養祖父が『古事記』の和歌「八雲立つ」から名付けたとされています。
また、小泉八雲の曾孫・小泉凡さんは現在も島根県立大学名誉教授として八雲研究を続け、松江市の小泉八雲記念館の顧問を務めています。「小泉八雲の子孫」への関心が高まっているのも、このドラマが史実との接点にいよいよ近づいてきた証だと思います。正式な帰化は1896年(明治29年)2月のことで、ドラマはここへ向かいつつあるのが見えてきました。
ばけばけ 永見さん(車夫)退場——「新しい名前。人生始めた名前。気持ち。」
出産の喜びと戸籍問題の間に挟まれるように、もうひとつの印象的なシーンがありました。専属車夫・永見さん(大西信満)の退場です。
永見さんは「ブキヨウデスケン(不器用ですけん)」というヘブンさんの言葉でクビになります。でも、そこには「不器用な妻」問題も含めた家族への思いやりが込められていて。ヘブンさんが「恩給。カゾクダイジイッショイナサレ(家族大事、一緒にいなされ)。」と送り出す姿に、解雇というよりもむしろ「家族のもとに帰してあげる」やさしさを感じました。
永見さんの返答は、いつもの断片的な言葉でした。
「大変お世話になりました。」
「家族大事。一生。皆さん。」
「新しい名前。人生始めた名前。気持ち。」
SNSでは「アタラシイノジンセイ、ハジメタノキモチ」という言葉が多く引用されていました。言いたいことがうまく出てこない永見さんらしい、断片的でぎこちない言葉なのに、それがかえって胸に刺さりました。
「ばけばけ 車夫」「ばけばけ 永見」というワードが急上昇しているのも納得で、熊本編で新たに加わったキャラクターでしたが、退場に「ロス」が広がるほど視聴者に愛されていました。「不器用な妻」問題という伏線まできっちり回収した脚本の丁寧さも、高く評価されていたようです。
次週予告——錦織さんばけばけ再登場!「ご無沙汰」の声に漂う不安
第110話の最後、ヘブンさんが予告の中で言います。
「錦織さん。ご無沙汰。」
次週、久しぶりに吉沢亮さん演じる錦織さんが登場することが明らかになりました。松江時代からヘブンさんとトキさんを支えてきた存在で、熊本編ではほぼ姿が見えなかっただけに、「まだ出ます」という情報を信じて待っていたファンにとっては待望の復帰です。
ただ、視聴者の間で広がっているのは「錦織さん、大丈夫?」という心配の声でした。予告での錦織さんの声に覇気がないように聞こえること、そして過去に吐血のシーンがあっただけに、「ハッピーな再会にはならないのでは」という不安の考察が飛び交っています。
戸籍問題という難題を前に、錦織さんがどんな形でヘブンさんとトキさんを助けるのか——あるいは、それどころではない状況になっているのか。史実への収束を予感させる展開の中で、錦織さんの再登場は来週の最大の注目ポイントです。
まとめ:第110話の見どころと伏線
- 朝ドラ久しぶりの「生出産」描写。 産婆さんの「よかよ。よかよか。おトキちゃん、ガンバ。三番さん、三番。」というユニークな掛け声と、男性陣の「てっぽう」が笑いと感動を同時に生んだ。
- 「ありがとう。偉かったけど、よかった。やけど偉いわ。よかったけど。」というトキさんの言葉と、「おお。おお。おお。」としか言えないヘブンさんの反応——言葉にならない感情が最大の感動を生む、演技と脚本の妙が光った。
- 正木さんが提起した「同じ戸籍に入らないと家族になれない」という問題。 史実の小泉八雲が「入夫婚姻」で解決した道筋が、ドラマのクライマックスへの伏線になっている。小泉八雲の子孫研究でも知られる曾孫・小泉凡さんへの繋がりも見えてきた。
- 「しっかり結婚しませんか?」「家族なりませんか。」——ヘブンさんのプロポーズ成立後、「イギリス人、日本人、同じ戸籍入れるんでしょうか」「わからない。」という二人の現実的なやりとりが次週への期待を高めた。
- ばけばけ 永見さん(車夫)の退場。断片的な言葉しか出てこない不器用さが逆に胸を打ち、視聴者に「永見ロス」を生んだ。「不器用な妻」問題という伏線を丁寧に回収した脚本への評価も高い。
- 次週は錦織さんばけばけ再登場。覇気のない声から体調への不安が広がる中、戸籍問題の解決にどう絡んでくるかが最大の注目点。吐血の伏線がどう回収されるかにも目が離せない。
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