「ブードゥードールなんて、ご利益はなかでしょう」——そんな会話の直後に郵便が届いた。笑ってしまうような偶然が、今回の第119話を象徴しています。でも、この話で本当に心をつかまれたのはその場面じゃなく、その先にある夫婦の対話でした。失業を打ち明けたヘブンに、トキはひと言も責めず、むしろ明るく前を向かせた。「あなたは書くの人ですけん」——この言葉が、あの名著『怪談』誕生の原点になるかもしれないと思ったら、もう涙が止まりませんでした。
「ばけばけ」第24週第119話 あらすじ
ヘブンの執筆活動は難航し、イライザをはじめとした関係者からの手紙の返事もなかなか届かない日々が続いていました。トキはヘブンがなくしてしまったブードゥードールの代わりを手作りし、「届け、届け、届け」と祈り続けます。「ご利益なんてないでしょう」とクマと話していた矢先、ちょうど郵便が届くという笑える偶然が。しかし待ちわびた手紙の返事は、ヘブンの講演への需要はないという厳しいものでした。部屋で荒れ、一人で抱え込んでいたヘブンは、ついにトキに帝大を解雇された事実を告白します。しかしトキは責めるどころか、「やっと時間ができますけん。あなたは書くの人ですけん」と夫を包み込みました。さらに「学がない私でも読める、楽しいの本を書いてくれませんか」と微笑んだその一言が、物語の核心に触れる神展開となりました。
「ご利益はなかでしょう」その直後に郵便が届く奇跡のシーン
今回の第119話、冒頭からヘブンは手紙の到着を待ちわびています。帰宅早々、女中のクマに「昨日手紙ない。本当ね」と確認し、「今朝は?」と続けるあたりに、日々の焦りがにじみ出ていました。
「わかりました。来たら必ずお知らせしますけん。」
クマのこのひと言は短くても、ヘブンへの気遣いがしっかり伝わってくるやりとりです。それでも「行ってきます」と帝大へ向かうヘブンの背中を、トキはブードゥードールを握りしめながら見送ります。
「パパさん。手紙すぐ届きますけん。届け、届け、届け。これで届きますけん。」 「届け。」 「届け。」
ヘブンとトキが声を合わせるように「届け」と言い合うこのシーンは、言葉は短いのに不思議と胸が温かくなります。それぞれが違う場所にいながら、同じ願いを共有している夫婦の姿が、静かに響いてきました。
クマとトキのブードゥードール論争がSNSで話題に
ブードゥードールを手作りしているトキを見て、クマが「こげはお守りの類を奥様が手作りして、ご利益はあるとですか?」と率直に聞きます。
「まあ、なかでしょうね。」(クマ)
「なかかな。」(トキ)
「なかでしょう。」
「なかか。なか。」
「なかでしょう。」
「ご利益はない」とふたりして頷き合いながら人形を作り続けるシュールさ。信じ切っていないのに作るのをやめないトキの行動が、なんとも可愛らしくて、クスッと笑えるシーンでした。SNSでも「なかでしょうのくだりが好き」「でも絶対作るトキちゃんが愛おしい」という声が多く上がっていました。
手紙が届いた瞬間、「ブードゥードール!」の連呼が止まらない
「なかでしょう」の会話が終わった直後、郵便配達員が「清水さん、郵便です」と声をかけます。
「えっ、今郵便って言っちょったよね。」(トキ)
「こげに?」
「ブードゥーのご利益ですね。」
「ブードゥードールね。」
「ブードゥードール。ブードゥー。ブードゥードール。ブードゥードール。」
「え?え、おー、それそれ。」
偶然の一致に大興奮するトキたちのやりとりが、これまた絶妙に笑えます。「ご利益はなかでしょう」と言っていたのに、完全にブードゥードールのおかげだと信じ切っている姿がほほえましくて。でもそのあとに続く展開を思うと、このコミカルな空気が一転するわけで——喜劇と悲劇の間で揺れる演出が、この朝ドラらしさを存分に見せてくれました。
待ちわびた手紙の内容は絶望——本を蹴るほど追い詰められたヘブン
やっと届いた手紙を受け取り、「私の?読みます」と急いで開封するヘブン。しかしそこに書かれていたのは、待ち望んでいた答えとはほど遠い現実でした。
「unfortunately at the moment, there is no demand for your lectures or talks。No, no, no。No, no, no。」
英語のこの文面が画面に映し出されたとき、ヘブンが抱えていた問題の深刻さが初めて鮮明になりました。講演や講義の依頼はない——つまり、イライザをはじめとした関係者への働きかけが、ことごとく空振りに終わっていたということです。「No, no, no」と何度も繰り返す文面からは、拒絶の冷たさが伝わってきます。
「unfortunately, there is no demand for your lectures or talks」の現実
ヘブンはアメリカへも日本へも手紙を送り、仕事の機会をなんとか探そうとしていました。しかし返ってきたのは無情な言葉の羅列。執筆は難航し、外の仕事の口もなく、それでも帝大には毎日出かけるふりをしていた——そのギャップを思うと、今回の告白がいかに重要な場面だったかがわかります。
「帝大日和は帝大日和じゃろ。ほんなら帝大によろしく。気をつけていくんじゃぞ。帝大まで。行ってきます。」
司之介が「帝大日和は帝大日和じゃろ」と明るく送り出すなか、ヘブンは苦笑いを浮かべながら「行ってきます」と出かけていく。その苦笑いの意味を、このとき司之介は知らない。手紙の内容と重ね合わせると、あの一瞬の表情にどれほどのものが詰まっていたか——胸が痛くなります。
スランプと孤独——一人で抱え込んでいた苦しみの爆発
視聴者の間では「本を蹴るシーン」が大きく話題になりました。長期間にわたる執筆スランプ、頼みの手紙への拒絶、そして誰にも言えないまま膨らみ続けた焦り——その全てがひとつの行動に凝縮されていたように感じました。「スランプが続く。家でここまで荒れるほど。物に当たっても、何にもならない」という視聴者の言葉が、そのシーンの重さを言い表しています。ヘブンが物に当たるような描写はこれまでにほとんどなかっただけに、そのギャップがより大きな衝撃を生んでいました。
「各所は私いらない。四百円。なくなりまし。ごめんなさい」——ヘブン、ついに白状
荒れているヘブンの元にトキが、ブードゥードールを作ろっている声をかけます。
「パパさん。今ブードゥードール作っちょりますけん。すぐにすぐにええ知らせ届きますけん。」(トキ)
その優しい言葉を聞いて、ヘブンはついに口を開きます。
「ママさん。毎日帝大行く。ふり。」 「クビ。クビにや、なりました。」
日本語でうまく言葉にできないもどかしさと、それでも伝えようとするヘブンの必死さが、このセリフからひしひしと伝わってきます。そして、これまで誰にも言えなかった事実をついに打ち明けます。
「各所、私いらない。四百円。なくなりまし。ごめんなさい。」
「書くことは私にはいらない(必要とされていない)」「四百円(報酬)がなくなりました」——不完全な日本語ながらも、その言葉にこめられた意味はあまりにも重い。帝大から解雇され、生活費まで失ったという告白を、ヘブンは「ごめんなさい」という言葉で終えます。謝ることしかできない不器用さと、嘘をつき続けたことへの罪悪感——トミー・バストウさんの演技が、そのすべてを声のトーンひとつで表現していました。
不器用すぎる告白とトミー・バストウの名演技
「嘘の嫌いなヘブンさんが、吐いてでも守らなきゃと自分を追い詰め、必死に各所にすがり、絶望してからトキに打ち明けるまで」——そう表現した視聴者がいましたが、まさにそれが今回の見どころでした。真実を話せなかった時間の長さだけ、あの「ごめんなさい」には重みがある。英語と日本語が入り混じった不完全な言葉が、却って感情のリアルさを増幅させていて、目が離せませんでした。
「あなたは書くの人ですけん」——トキの逆転の言葉
告白を受けたトキの反応は、誰もが予想しないものでした。嘆くわけでも責めるわけでもなく、むしろ明るく言い切ります。
「なんだ。ならよかったじゃないですか。やっと時間ができますけん。好きなだけようけようけ書けますけん。たくさん書いてごしなさい。あなたは書くの人ですけん。」
「なんだ」の一言が、すべての重さを軽やかに受け止めてしまう。解雇を「やっと時間ができた」と言い換え、ヘブンを「書くの人」として定義するトキの言葉は、責める言葉でも励ます言葉でもなく、ただ事実として夫の本質を認める言葉でした。これが「聖母マリアのよう」と言われた理由がよくわかります。不安げなヘブンが「でも四百円。家族」と続けると、トキはさらに言います。
「大丈夫。大丈夫ですけん。そげなことでうちの家族は壊れません。でしょ。」
「でしょ」のひと言がたまりません。確認しているようで、ヘブンへの揺るぎない信頼を宣言している。ここで「ありがとう。ありがとう、ママさん」と返したヘブンの声が、涙声になっていたのが、画面越しにも伝わってきました。
「学がない私でも読める本を書いてくれませんか」——名著誕生への布石となる神台詞
感動の告白シーンが落ち着いたあと、ヘブンは「よかったの。のう、昔のわし」と少し安らいだ表情を見せます。「ほんによかった。これでベストセーラーが書けるの」と漏らす司之介に、フミが次の本について尋ねます。
「ああ、言っちょりましたね。もう決まってるんですか?次の本は。」(フミ)
「まだ。なんぼ難しい。」(ヘブン)
執筆テーマが決まらない。それが今のヘブンの本当の苦しみでした。そのやりとりを経て、トキがそっと口を開きます。
「次の本ですが。私読めるの話書いてくれませんか?」
「ええ。今まで。ようけ本ありました。素晴らしいの本ようけ。ずっと読みたかった。パパさんの本。だけん。学がない私でも読めるの本。楽しいの本。書いてくれませんか。」
この台詞を見て、SNSでは「号泣」の報告が相次ぎました。「ずっと読みたかった、パパさんの本」という告白の中に、トキが長年抱えてきた「学がない」という悲しみが凝縮されています。責めるのではなく、自分が読みたいというかたちでヘブンに新しい目標を与えるトキの言葉は、夫を支えるためではなく、純粋な愛情から出た言葉であることが伝わってくるから、余計に響くのだと思います。
「ずっと読みたかった、パパさんの本」——トキの言葉が持つ意味
『ばけばけ』という物語の中で「学がない悲しみ」はひとつの重要なテーマとして繰り返し描かれてきました。トキは怪談や民話を愛しながらも、高い教育を受けることはできなかった。その悲しみは克服されるわけではなく、ずっとトキの中に静かに存在してきた。だからこそ「学がない私でも読める本」というリクエストは、切実な本音です。夫への愛であると同時に、自分自身が「読みたい」という純粋な願いが込められている。この台詞に多くの視聴者が涙した理由は、そこにある気がします。
史実とのリンク——小泉八雲はここから『怪談』を書き始めた?
ヘブンのモデルは言わずと知れた小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)。そして八雲の代表作が、日本の怪談・民話を英語で世界に伝えた『怪談(Kwaidan)』です。今回の「私でも読める、楽しいの本を書いてくれませんか」というトキの願いは、史実においても小泉節子(モデルとなった人物)が八雲の怪談収集に深く関わったことと重なります。怪談や民話を愛するトキが、ヘブンに「私が読める話」を求める——その一言が、あの名著誕生のきっかけになるとしたら。残り数話で描かれる「カクノヒト」への道のりが、今から楽しみでたまりません。
まとめ:第119話の見どころと伏線
- ブードゥードールとタイミングの一致 ——「ご利益はなかでしょう」と言いながら郵便が届くコミカルシーンが今話の温かい導入となり、以後の重厚な展開を際立たせた。
- 待ちわびた手紙の絶望的な内容 ——「unfortunately, there is no demand for your lectures or talks」という英文が、ヘブンの孤独な苦境をダイレクトに突きつけた。帝大解雇を一人で抱えていた重さが一気に伝わるシーン。
- 「各所は私いらない。四百円。なくなりまし。ごめんなさい」 ——不完全な日本語で打ち明けるヘブンの告白。不器用さと誠実さが絡み合う、トミー・バストウの名演技が光った。
- 「あなたは書くの人ですけん」「大丈夫。そげなことでうちの家族は壊れません」 ——責めるでも慰めるでもなく、ヘブンの本質をそのまま肯定するトキの言葉。夫婦の絆の深さが全視聴者に伝わった。
- 「学がない私でも読める本を書いてくれませんか」 ——今話最大の神台詞。トキ自身の長年の「学がない悲しみ」と純粋な夫への愛が凝縮した一言が、史実における名著『怪談』誕生の伏線として機能する神展開。
- 「カクノヒト」へ向けて動き出す物語 ——第24週のサブタイトルは「カイダン、カク、シマス。」ヘブンがトキの願いを受けて怪談執筆へ踏み出す展開が、残り数話でいよいよ描かれる。次回から目が離せない。
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