『ちょっとだけエスパー』第8話ラスト考察|四季が最強エスパーに?「私が救う」の意味と最終回への伏線

2025年12月9日に放送された『ちょっとだけエスパー』第8話は、これまで謎に包まれていた兆の真の目的と、文太たちBit5が「選ばれし者」となった衝撃の理由が明かされる重要回でした。「いらない人間」「今年中に死ぬはずだった」という残酷な真実、桜介の突然の異変、そして二人のぶんちゃん(文太と文人)が四季を巡って選択を迫られる切ない展開。記憶を上書きするための江ノ島デート、兆が20年間忘れられなかった四季への愛、そして文太に課された究極のミッション。さらにラストでは四季がEカプセルを大量摂取し、「私が救う」と宣言。ディシジョンツリーが崩壊し、最終回へ向けて物語は加速します。

目次

ちょっとだけエスパー 第8話 あらすじ

兆から「いらない人間」「エスパーにならなければ今年中に死んでいた」と告げられ、衝撃を受けるBit5。桜介が突然倒れ、Eカプセルの副作用が発覚します。桜介・円寂・半蔵は解雇され、文太だけが新たなミッションを課されます。兆の真の目的は、20年前に死んだ妻・四季を救うこと。1000万人の犠牲を出しても彼女を取り戻そうとする兆の計画が明らかに。文太は四季に記憶を上書きする銀色の液体を渡すミッションを遂行。江ノ島での切ないデートの末、二人は別れを選びます。しかしラストで四季がEカプセルを大量摂取し、「ぶんちゃんとぶんちゃん、二人とも殺します」と宣言。ディシジョンツリーが崩壊し、世界の運命が揺らぎ始めます。

兆の独白と「選ばれし者」の条件

第8話は、兆の独白から始まります。夜のノナマーレで、兆はホロリンクコミュニケーターを完成させ、ついに2025年の四季を自分の目で見ることができました。

「この時代で作らせていたホロリンクコミュニケーターがついに完成した。こちらでの姿を、目と耳を、ようやく手に入れた」

兆が目にしたのは、クリーニング店で笑顔で接客する四季の姿。生きている四季を見た兆は、目を潤ませます。この瞬間、視聴者は兆の感情の深さを初めて知ることになります。

そして場面は変わり、インストールの液体を拒み、文太と四季が抱き合うシーンを見た兆は、「驚いた。こんな…」と言葉を失います。そして、Bit5のメンバー全員を集め、衝撃の告白を始めます。

「いい機会です。ノナマーレについて話しましょう。皆さんは、私に選ばれた。その条件は何だったのか。ディシジョンツリーの外にいること。いてもいなくても変わらない」

さらに兆は続けます。

「私がEカプセルを与えなければ…みんな今年のうちに死んでいた。ノンアマーレ。愛してはならない。あなたたちが。いらない人間だからですよ」

この言葉に、文太たちは絶句します。自分たちが「いらない人間」だったこと、エスパーにならなければ今年中に死ぬ運命だったことを知らされるのです。

四季は円寂の涙に気づき、兆の言葉の重みを実感します。さらに兆は、桜介・円寂・半蔵の3人を解雇すると告げます。

「桜介さん、あなたを解雇します。円寂さん、半蔵さん、お二人も解雇です。度重なる報告漏れに加え、ミッションを放棄した。三人ともお疲れ様でした。社宅は明日中に明け渡してください。あとはどこへでも好きなところへ」

しかし文太だけは残され、

「明日ノナマーレに来てください」

と命じられます。兆は四季へと目を移し、彼女の責めるような眼差しを受けて姿を消します。

桜介の突然の異変とEカプセルの副作用

四季が

「私はみんなが大切。いらなくなんかない」

と言った直後、桜介に異変が起こります。

桜介の目から血があふれ、床に落ちます。

「大したことはない」

と言う桜介ですが、すぐにうつぶせに倒れてしまいます。耳からも血が滴り、メンバーは大混乱。

半蔵の柴犬・佐助が、桜介から不思議な匂いがすると伝えます。

「サスケが、桜介から不思議な臭いがするって。その匂いは僕たちからもしてて、一番強いのが桜助、次が円寂さん、僕、文太さんの順番。シキさんからはうっすら香るくらいだって」

円寂が気づきます。

「エスパーになった順番」

だと。そして円寂がバッグから取り出したのは、Eカプセルのシートでした。

「これのせい?」

この伏線が、後の展開で重要な意味を持つことになります。

文太と兆の対峙、そして新たなミッション

翌日の昼、文太は社長室で兆と向き合います。兆に背を向けたまま、文太は問い応えます。

「副作用。そうですね。あり得る話です。Eカプセルは、未来でまだ承認されていません」

文太は前任者たちのことを話します。

「我々より前にエスパーになった人間が、全員死んでます」

文太は怒りを込めて聞きます。

「危ないとわかってて、俺たちに飲ませたんですか?」

しかし兆は冷たく笑い、こう答えます。

「もともと死ぬはずだった人間が、副作用で死んで、何を怒る必要があるんです?」

文太は天井を見上げ、大きく息をつき、胸ポケットから封筒を取り出します。

「これはお返しします。それと、もう一度…退職願です。どうせ、触れやしないでしょうけど」

文太が踵を返そうとすると、兆が立ち上がり、こう告げます。

「ミッションをお願いします。あなたにしかできないミッションです」

文太が振り向き、

「やるはずがないだろう」

と言いますが、兆は言い切ります。

「やります。私が過去を改ざんするしかないように、あなたもこのミッションをやるしかないんです」

二人の視線がぶつかり合います。このシーンは、文太がこれから背負うことになる重い使命を予感させます。

別れと新たな生活の始まり

解雇された桜介、円寂、半蔵は、それぞれの道を歩み始めます。

半蔵は動物たちをペットハウスのバンに預け、頭を下げます。

「しばらくの間、お願いします。必ず迎えに行くからいい子にしてるんだよ」

円寂は四季の誘いを断り、ネットカフェに泊まることを選びます。

「あの家も兆社長が用意した家でしょう。世話になりたくないの」

そして円寂は、遠くに目を向けながら呟きます。

「これから、何のために生きればいいのかしら」

この言葉には、ヒーローとしての役割を失った円寂の虚無感が滲み出ています。

桜介の過去と息子紫苑への想い

花屋では、桜介が文太に自分の過去を語ります。

「これ思い出したんだ。何で俺が花咲かになったか。子供の目って綺麗だろ?まだ何も汚いもん見てない。青っぽくすんだ綺麗な目。みずきと赤ちゃんの紫苑。その目に映る景色が綺麗だといい、こいつには綺麗なもんを見せてやりたい。だから、花を咲かせるエスパー」

しかし桜介の表情が曇ります。

「でも違った。根っこは人を殺すかもしれない。そういうエスパーだった。紫苑を怖がらせて、憎ませて。こんな父親、いらねえよな。この世に」

桜介の能力は、美しい花を咲かせるだけでなく、根っこで人を殺すかもしれない危険なものでした。息子に恐れられ、憎まれた桜介の苦悩が、このセリフから伝わってきます。

市松と九条の真相究明

場面は変わり、文太と九条が市松の部屋で会話。

「紫苑には説教しといた。エスパー使うな、余計なことすんなって。紫苑のせいでせっかく出てきたアイがまた消えたって言ったら、めっちゃショック受けてた」

市松は、紫苑の行動で桜介の愛が消えてしまったことを説明します。

九条は核心に迫ります。

「柳たちは誰かのエスパーで殺されたんじゃなくて、イーカプセルの副作用で死んだ。それが答え?」

「ああ、兆も認めた」

しかし市松は納得できません。

「この時代にイーカプセルのレシピを持ち込んで作らせたの兆なんだから、兆が殺したも同然でしょ?」

文太は答えます。

「兆も、みんなが死んで初めて副作用に気づいたんだ。殺そうとしたわけじゃない」

そして文太は、重要な言葉を口にします。

「世界を救う、その意味がわかったんだ。とにかく、そういうことだ」

文太は兆の真の目的を理解し始めていたのです。

四季と文太の江ノ島デート、記憶を上書きする旅

四季と文太の間には、ある計画がありました。

「引っ越ししない?ここは好きだけど、ここにはいたくないの。だめ?」

「いいよ、そうしよう。どんな家がいい?」

「あー、窓が大きくて、みんなが集まれる広いリビング。次のお休み、不動産屋さん行こう」

しかし文太には別の計画がありました。

「次の休みは、行きたいところがある」

「うん、どこ?」

「江ノ島。前から行きたがってたでしょ?鎌倉から江ノ島のルートで、どこを回って、どこで昼飯食べて、前行った場所にもう一度行きたいって、予定表も作ってた」

四季は戸惑います。

「あれは。違った。あれは、未来の記憶で、文ちゃんとの思い出じゃなかった。だから、違った。行かなくていい」

しかし文太は優しく言います。

「行こうよ。行って、記憶を上書きしよう」

こうして二人の江ノ島デートが始まります。

上智寺での祈りと記憶の混濁

上智寺で、文太と四季は並んで手を合わせます。茅葺き屋根の書院、紫の花、苔むした小道、竹林。美しい風景の中、二人はまぶたを閉じて願い事をします。

四季が目を開け、文太にほほ笑みます。去り際にもう一度視線を向ける四季。

「すごく嬉しかった。うん。ぶんちゃんが上書きしようって言ってくれて」

文太が笑みを浮かべます。

「変な話だよね。未来の記憶に翻弄されるなんて。そう、ピャーっと塗り替えよう。ちょっとそうぴゃっと、ぴゃっとね」

二人はしらす丼の店に来ます。店内には、2025年新作のしらす丼キーホルダーが。二人は見ないふりをします。

しらす丼での記憶の重なり

「おいしそう。これは大勢の命が。」

「今から全部いただきます。」

「残酷」

生しらす丼を食べる二人。しかし四季は、ふと真顔になります。誰もいない窓際のテーブルに目を向けると、自分と文人(フミト)が見えるのです。

未来の記憶の中で、四季はフミトに言います。

「せっかく来たんだから、文ちゃんも生シラスにすればいいのに」

フミトは釜揚げしらす丼を食べています。

「透き通ってる。」

「食べる?」

フミトはブルブルと顔を振ります。

四季の中で、現在の文太と未来のフミトの記憶が混ざり合っていきます。

帰り際、二人はしらす丼キーホルダーを買います。2026年人気商品のポップを見ながら、それぞれ赤と青を取ります。

「かわいい。かわいい。」

四季は思いにふけるような表情。文太は、そんな四季に気づき、視線をそっとそらします。

兆の過去と四季への愛の告白

社長室で、兆はディシジョンツリーを見つめ、目を閉じます。そして、文太との会話の中で、兆の過去が明かされます。

兆の記憶の中には、フミトと四季が内覧に来た家があります。

「雰囲気はいいけどこんなに広くても使い道ないし。お店やるならともかく」

しかし四季は縁側から庭を見て、目を輝かせます。

「いい。すっごくいい。秋にはお月見できるよ」

二人は幸せな日々を過ごします。並んだしらすドンキーホルダー。慣れた様子で朝食を食べるフミト。扇風機の前での場所取り合い。タコを入れないたこ焼きの話。

そしてアニバーサリーキャンドル。

「私たち25年で終わり?」

メモリーは25まで。慌てて首を横に振るフミト。そして二人は、26以降の数字を几帳面に書き込みます。

「51年目以降は体力と健康次第だな」

「どこまで長生きできるか」

「自信ない」

火を灯し、フミトと四季は言います。

「私は行ける気がする。文ちゃんとなら永遠まで」

「永遠。いつまでも」

「では、とこしえを目指して」

見つめ合う二人。キャンドルの炎に照らされた横顔。ゆっくりと近づく唇が触れかけます。

この幸せな記憶が、兆の心に深く刻まれていたのです。

2035年の悲劇と兆の決意

しかしその幸福は、2035年に終わりを告げます。

空から落ちてくる灰。土壌に立ち込める白煙。電線が火花を散らす。アスファルトに投げ出された足。頭から血を流したフミト。

「良かった。生きてた」

隣に横たわる四季。フミトが身を起こします。

「四季。何があった?」

こちらを見ている四季。フミトの目が一点に吸い寄せられます。瓦礫の下敷きになった四季の体。下半身がない。

「四季。四季。四季」

こと切れている四季。

「四季。四季」

9年目まで溶けたアニバーサリーキャンドルの灯火が吹き消されます。

社長室で目を開ける兆。

「あれから。記憶は薄れない。目に焼き付いて離れない。四季の最後の姿」

視線を文太に向け、兆は語り始めます。

「過去にアクセスできると知ったとき、福音だと思った。この二十年。茫然とただ息をしていた。あの時を、あの刹那を改ざんできるなら、四季を取り戻せるなら」

兆は一人の投資家にアクセスし、未来を教えて資産を形成。その資産で技術者や研究者を雇い、この時代にないものを作らせました。

「しかし、思ったようには世界は変わらない。未来からの介入に反発する世界の意志。完成の法則のようなもの。果たして間に合うのか」

そして兆は、最終手段として記憶のインストールを試みます。

「保存していた四季の脳。その記憶メモリーを使う。2025年の四季に四季自身の未来の記憶をインストールする。その中にトリガーを仕込んでおく。あの忌まわしい出来事から四季を遠ざけるように」

記憶の中のトリガーによって、四季は危険な交差点を避けることができるはずでした。

「まるで天使が肩に手を置くように、その時が来たらそっちじゃないよと囁いてくれる。そんなシステム」

兆は文太に銀色の液体の瓶を渡します。

「これを四季に飲ませてください」

立ち尽くす文太に、兆が近づきます。

「私にはわかる。あなたは必ずミッションを遂行する。あなたも。四季を愛してるから」

視線を交える兆と文太。

七里ヶ浜での別れと文太の苦渋の選択

夕暮れの七里ヶ浜。広がる青い海。文太は波打際を静かに歩きます。四季がついて行きます。

文太が足を止め、四季に近寄ります。ポケットから銀色の液体の瓶を取り出します。

「これ飲んで。飲めばこの半年の記憶が消える。きれいさっぱりやり直せる。あの人の命令。今日の俺のミッション」

「本気?」

「はい」

「私はあなたを選んだんだよ」

「四季さん。嘘ついちゃいけないよ。四季さんの心の声。触らなくてもバレバレです」

視線を外す四季。

「四季さんって、やめて」

「あなただって。あなただって。今日の途中から俺を文ちゃんとは呼ばなくなった」

四季が目を伏せます。大きく息を吸う文太。

「あなたの文ちゃんは。俺じゃない」

四季の記憶の中で、フミトの姿が現れます。沖を見る隣にいるフミト。フミトが照れたように四季の手を握ります。繋いだ手を揺らし、四季が寄り添います。

向き合う四季と文太。四季は目を伏せたまま。文太が手の中の瓶を見ます。

文太の声が重なります。

「私が過去を改ざんするしかないように、あなたもこのミッションをやるしかないんです」

兆の2035年の記憶と四季の最期

兆の記憶が蘇ります。

「私には忘れられない景色がある。とこしえに」

空から落ちてくる灰。土壌に立ち込める白煙。電線が火花を散らす。アスファルトに投げ出された足。頭から血を流したフミト。

「よかった。生きてた」

隣に横たわる四季。フミトが身を起こします。

「四季。何があった?」

こちらを見ている四季。フミトの目が一点に吸い寄せられます。瓦礫の下敷きになった四季の体。下半身がない。

「四季。四季。四季」

こと切れている四季。

「四季。四季」

9年目まで溶けたアニバーサリーキャンドルの灯火が吹き消されます。

たこっぴでの別れ

夜、たこっぴの表。文太が足を止め、四季に振り向きます。

「私はここで」

目を合わせない四季。文太が四季の手に瓶を握らせます。

「家に入ったらこれを飲んでください。記憶の再インストールが始まります」

四季が顔を上げます。

「飲みたくない」

しかし文太は冷たく言い放ちます。

「わがまま言わないでください。いつまであなたに付き合わなきゃいけないんですか。いくら仕事とはいえ、重い、荷が重い。あなたが重い。重かった。私には過ぎたミッションでした。お疲れ様でした」

頭を下げる文太。歩き出した文太の腕を四季がつかみます。

「全部消えちゃうんだよ。あなたを忘れちゃうんだよ。」

(心の声)「愛してる。あなたを愛してる。あなたもそうでしょう」

文太が四季の手を外します。

「心の声はもう聞こえないんです。薬を飲むのをやめたんで」

四季の目が潤います。

「失礼します」

文太の背中が遠ざかります。

四季は空を仰ぎ、呟きます。

「四季も兆しも。人の気持ち勝手に決めんじゃないよ。誰も愛しちゃいないよ」

文太は目を閉じ、立ち止まり、空を仰ぎます。

「ミッション完了」

それぞれの夜、それぞれの選択

桜介の孤独

海沿いの道。桜介の手にEカプセル。

半蔵と佐助の絆

河川敷の橋の下、野宿の支度をする半蔵と佐助。

「あ、何言ってんの?」

佐助が半蔵を見上げます。

「死なないよ。約束したろ。一人にしないって。みんな?みんなだって死なないよ」

スマホを出す半蔵。

「ほら、来たー。元気だよ」

円寂からピースの自撮りが送られてきます。

円寂の復讐心

住宅街。暗闇で円寂が電話に出ます。

「夢みたいだったわね。一日も早く死にたいと思ってたはずが、いつの間にか自分が世界にとって必要なんだって思うようになった」

「ヒーローは甘い夢。全部まやかしで。いずれ体を蝕む猛毒だった」

手の中に4錠のEカプセル。立ち上がる円寂。

「私ね、刑務所で考えてたの」

門の外から豪邸を覗きます。

「私の人生を台無しにした男」

結城の表札。

「あの男の頭を電子レンジにぶち込んでチンしてやりたい」

目を血走らせる円寂。

市松と兆の取引、そして九条の潜入

ノナマーレのステッカーの付いた誰かのスマホにミッション。市松を連れてくる指示。

市松はアパートから男たちにさらわれます。追いかける九条。

薄暗いノナマーレ会議室。市松が手足を縛られ、転がされています。

「誰か。誰か。誰か」

目の前に現れる足。市松が顔を見上げます。

「はじめまして。若き日の市松博士」

「あんたが兆」

「はい」

九条の潜入とデータ確認

廊下で、九条が忍び足で現れます。奥の社長室のドアへ向かい、クリップでまとめたメモを見て、ドアのロックを解除。中へ入り、パソコンを見つけます。

ログインすると、デシジョンツリーのビッグデータが開きます。

兆と市松の交渉

会議室では、兆と市松の交渉が始まります。

「あなたと取引をしたい。2055年、私は自首します。そうすれば市松博士の死刑はなくなる。無罪放免」

「条件は」

「今のあなたが手を引くこと。これ以上何も関わらず、私の邪魔をしない」

外では、四季がポツポツと明かりがついた巨大なビルを見上げています。

会議室に戻ります。

「あなたの干渉のせいで予定が遅れているんです」

「予定?」

「世界を変える私の計画です」

「あんたはどうして一千万人を殺したいの?」

「殺したいわけじゃありません。世界を正しい形にするとそうなってしまう」

「正しい形」

「私には救いたい人がいるんです」

「その人は死んだの?」

「はい。今から10年後に。私が代わりに死んで助かるのならそうしたんですが、私が死ぬと彼女も不幸な人生をたどる。それがシミュレーションの結果です。一兆通り試しても一京通り試してもダメでした」

「だとしても、死ぬはずじゃなかった一千万人を死なせるなんて」

「数が多いのが問題。少なければいいの?大国が滅びるのは問題でも、小さな国が滅びるのは構わない。小さな国の一人にも人生があるのに」

「詭弁だ。これから万の人生を消そうってやつが」

市松は、兆の自首の約束の矛盾を指摘します。

「あんたは自首するって言ったけど、過去の改ざんに成功したら、今ここにいるあんたは消えるよね。その彼女が死なない未来になったら、兆は生まれないだろう」

兆が口元をゆがめます。

「さすが市松博士」

「やっぱり自首する気ねえじゃん」

兆は立ち上がり、さらに一歩進んだ理論を語ります。

「世界が正しい形になれば、過去を改ざんしようとする私は生まれない。つまり、Eカプセルのレシピが盗まれる未来もなくなって、市松博士が誤認逮捕されることもなくなる。全て解決です」

「解決?」

「ええ」

しかし市松は納得しません。

「俺は、この先の未来が変わっても、今ここにいる俺は変わんないよね。それが。俺は俺が止めなかったせいで千万人が死んだって思い続けなきゃならないじゃん」

兆が近寄り、目線を合わせます。

「真面目に考えすぎです。もっと気楽に」

「くよくよするタイプなの俺は。後悔してどこまでもくよくよして、そのたびに手汗が止まんなくなる。一千万人が死んだら、一生ベショベショだよ」

兆は険しい表情になります。

「取引には応じられない」

「一千万人が死んだ方がいいなんて俺は言えない」

首を傾げる兆。

「愚かだな」

腰を上げます。

「その選択をまた後悔するといい」

兆が消えます。肩の力を抜く市松。

「おい、どうすんだこれ」

縛られた腕に目をやります。

四季が廊下から社長室をのぞきます。データを確認する九条。ハッとして画面を閉じ、身を隠します。現れる兆。

四季がソーイングセットのはさみで結束バンドを切ります。

「ありがとうございます。で、どうしてここに?」

はさみを握りしめる四季。

「ごめんね」

市松は困惑し、四季は市松を残し出て行きます。

文太の決意と四季の記憶

文太の最後の選択

表を力なく歩く四季。立ち止まります。

記憶の中で、瓦礫の下の四季が現れます。

「何があった?」

フミトがこちらを見て息を飲みます。

「焼ける。痛い。お腹焼けてる。熱い。痛い。うそ。感じない」

目の前に血を流したフミトの顔。ぼやけてゆきます。

「四季、四季、四季!」

「帰りたい」

四季の瞳から涙。

表で四季が気づきます。

「そうだ。死んだ。私、死ぬんだ」

文太の覚悟

雑居ビルの外階段。およそ5階建てのビルを文太が上がっていきます。屋上に来ます。胸の高さの柵越しに下を覗きます。

「低いな。慣性の法則で行けるか」

四季の暴走、Eカプセル過剰摂取

たこっぴ。四季が帰ってきます。

アルミのやかんの蓋を開けます。中に大量のカプセルのシート。手に取ります。

庭の方を向いて座る四季。シートからEカプセルを出し、次々口に入れます。

ディシジョンツリーの枝がはじけます。

片膝を立てた四季。明かりもつけず、カプセルを噛み砕き、絶え間なく口へ運びます。

ツリーの枝がはじけ飛びます。四季はうつろな目。

世界の崩壊

社長室。九条が隠れていた場所から顔を出します。兆は視線を上げ、立ち上がります。

「何だ」

ディシジョンツリーの周りに星雲のような光が渦巻きます。

雑居ビルの屋上。文太が目を奪われます。

遠くにたたずむノナマーレのビル。大きな光の渦がその上に広がっています。壊れたディシジョンツリーが黒い空に不気味に伸びます。

驚愕して見つめる文太、兆。

四季はカプセルを口に運び続けます。

「ぶんちゃんとぶんちゃん。二人とも殺します」

「生きるのと同じぐらい死ぬのだって苦しいの」

「さて、いっちょ救いますか?」

「ちょっとだけヒーローね」

📝 まとめ:今回の見どころと伏線

第8話は、『ちょっとだけエスパー』の核心に迫る衝撃回でした。以下、今回の見どころと伏線を整理します。

  • 兆の真の目的:四季を救うために1000万人を犠牲にする計画 兆が2055年から過去にアクセスしている理由は、2035年に死んだ妻・四季を救うため。20年間忘れられず、一兆通り、一京通りのシミュレーションを試みても、彼女を救う方法は「世界を改ざんする」しかなかった。
  • 「いらない人間」の真実:Bit5は今年中に死ぬはずだった 文太たちが「選ばれし者」だった理由は、ディシジョンツリーの外にいる「いらない人間」だったから。エスパーにならなければ今年中に死んでいた彼らを使うことで、未来への影響を最小限にしようとした。
  • Eカプセルの副作用:第一世代のエスパーは全員死亡 桜介の突然の異変は、Eカプセルの副作用。第一世代のエスパーは全員死亡しており、Bit5も同じ運命をたどる可能性がある。エスパーになった順番(桜介→円寂→半蔵→文太→四季)で症状が現れている。
  • 二人のぶんちゃん:文太とフミトの切ない三角関係 四季の「本当の夫」はフミト(兆の過去の姿)。記憶のインストール失敗により、未来の記憶が混じった四季は、文太を愛しながらもフミトの記憶に揺れる。江ノ島デートは、記憶を上書きするための旅だった。
  • 文太の究極のミッション:四季に記憶上書きの液体を飲ませる 兆は文太に、四季の記憶を再インストールするミッションを課す。文太は苦渋の選択の末、四季に銀色の液体を渡すが、四季は飲むことを拒否。文太は冷たい言葉で突き放し、別れを選ぶ。
  • 四季の暴走:Eカプセル過剰摂取で最強エスパーへ ラストで四季は、大量のEカプセルを摂取。「ぶんちゃんとぶんちゃん、二人とも殺します」「私が救う」と宣言し、ディシジョンツリーを崩壊させる。「ちょっとだけエスパー」から「最強最悪のエスパー」へと変貌した四季が、最終回で何を引き起こすのか。

次回、ついに最終回。文太たちBit5は四季を救えるのか、兆の計画は成功するのか、そして世界の運命は――。野木亜紀子が描くSF恋愛ドラマの結末を、どうぞお見逃しなく!

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