『冬のなんかさ、春のなんかね』第3話考察 | 今泉力哉が描く恋愛の”タイミング”元カレ・柴咲との再会で気づく文菜の変化

年末、富山の実家に帰省した文菜が、10年ぶりに元カレ・柴咲秀と再会する第3話。プチ同窓会のカラオケで明かされた「遠距離にビビって別れた」過去、そして翌日の柴咲からの突然の電話。今度は柴咲が遠距離恋愛に悩んでいて――。10年前とは立場が逆転した二人の会話に、恋愛におけるタイミングと距離の残酷さが浮き彫りになります。「距離なんかで」と語る柴咲の真っすぐさと、「色々嘘もついてしまった」と弟に打ち明ける文菜の複雑な心情。そして最後に響く「東京で暮らす私は、柴咲とはだいぶ違う恋愛をしている」というモノローグが、文菜の変化と喪失を静かに告げます。

目次

『冬のなんかさ、春のなんかね』第3話 あらすじ

年末、富山の実家に帰省した文菜は、プチ同窓会で元カレ・柴咲秀と10年ぶりに再会する。二次会のカラオケでは、友人・マサオが別れた理由を暴露。「遠距離にビビって、試しもせずに別れた」過去が明かされる。翌日、柴咲から電話がかかってきて、カフェで再会。柴咲は東京転勤が決まり、今の彼女・サキから「遠距離は無理」と言われたと打ち明ける。10年前とは逆の立場になった柴咲に、文菜は「私たちの時のこと、使っていいよ」とアドバイス。帰京後、文菜は弟に「色々嘘もついてしまった」と告白。ラストのモノローグで「東京で暮らす私は、柴咲とはだいぶ違う恋愛をしている」と語り、文菜の変化が浮き彫りになる。

カラオケで語られる10年前の別れ――「遠距離にビビって、試しもせずに別れた」

第3話は、文菜が富山の実家に帰省するシーンから始まります。弟・拓也とのやりとりで「柴咲先輩来るん?」と盛り上がる拓也に、文菜は冷静に「知らん。来るんじゃない?」と答えますが、その表情には10年ぶりの再会への複雑な感情が滲みます。

プチ同窓会の居酒屋では、文菜と柴咲が久々に顔を合わせます。そして二次会のカラオケボックスで、友人たちが「結局なんで別れたの?」と切り出すと、空気が一気に変わります。

「いや、別にいいけど、なんでも。いや、なんでタブーなん? 付き合っとったんは事実やし、別れたんだっていうのも隠すことじゃないやろ」

文菜のこの言葉に、彼女の「過去を受け入れた」スタンスが表れています。しかし、ここからマサオが語り出す別れの理由は、想像以上に生々しいものでした。

「いや、まあ、二人が別れた理由は至ってシンプルでね。ああ、文菜が大学に行くタイミングで上京して、で、遠距離になったっていう」

「ビビったんだって柴咲が」
「まあ、東京に。まあ、あと単純に、距離に」

そして文菜が補足します。

「私は大学に入っても、距離ができても、付き合い続けるつもりでおったんやけどね。けど、ま、柴咲が遠距離は無理かもってなって。で、なんで? ってなって。で、いろいろ話して、話したね、いろいろ。で、別れることになった。まぁ、それだけかな」

この淡々とした語り口が、逆に当時の文菜の心情の深さを物語ります。「試しもせずに別れた」という事実が、10年経った今も二人の間に横たわっているのです。

マサオの暴露話が明かす柴咲の後悔

そしてマサオが止まりません。酔った勢いで、柴咲のその後を次々と暴露していきます。

「いや、柴咲、めちゃくちゃ後悔しとったから。あの後、俺もう本当最悪なことしたってずっと言っとって。俺もう一生彼女作らん。文菜より好きな人なんてもう絶対できんって言っとったから」

「大学入って1年の夏くらいからかな。文菜に素敵な彼氏ができますようにって毎朝神社通っとったやん。そんでサッカーするたびタクヤに聞いとったよ。文菜に彼氏できたかって」

このマサオの言葉は、視聴者にとっても衝撃的です。柴咲がどれだけ文菜のことを思い続けていたのか、そしてどれだけ自分の選択を後悔していたのかが、一気に明らかになります。

しかし文菜は冷静です。「はい、はい、もうおしまい。マサオ、それは多分私に聴かせたらダメなやつや」と遮り、話題を変えようとします。この態度には、文菜の「もう過去のこと」という気持ちと同時に、あまりにも生々しい柴咲の想いを受け止めきれない複雑さが表れています。

「タイミングってあるよね、恋愛」――安本の一言が全てを象徴

そして安本が何気なく口にした言葉が、この第3話全体のテーマを象徴します。

「でもタイミングってあるよね。恋愛って」

「タイミング、タイミングですよ」

この「タイミング」という言葉は、文菜と柴咲の関係だけでなく、後に柴咲が直面する新しい恋愛の問題にも繋がっていきます。恋愛において、気持ちや相性以上に「タイミング」が重要であるという残酷な真実を、今泉力哉監督は静かに、しかし確実に描いていきます。

翌日の突然の電話――立場が逆転した元カレの悩み相談

カラオケの後、文菜は実家に戻り、弟・拓也と会話をします。

「色々嘘もついてしまった」

「嘘?」

「うん」

「まあ、必要な嘘ならいいのでは?」

この短いやりとりが、文菜の心の内を物語ります。柴咲に対して、自分が「幸せ」だと答えたこと。それが本当なのか嘘なのか、文菜自身もわかっていないのかもしれません。

そして翌日、突然柴咲から電話がかかってきます。

「もしもーし」
「もしもし、柴崎です」
「あ、いやー、明日ちょっと会えんかな。帰る前に。夕方までのどこかで」

この電話に、文菜は少し驚きながらも「会えるけど」と答えます。一昨日会ったばかりなのに、柴咲は何か急ぎの用があるようです。

「さきが遠距離無理かもって言いだして」柴咲の告白

翌日、カフェで再会した二人。柴咲が切り出した話は、文菜にとって予想外のものでした。

「ごめんね。一昨日会ったばっかりなのに」

「ううん。どうした?」

「あー。さきがさ。遠距離無理かもって言いだして。そう、それで、東京行くなら別れたいって言われて」

柴咲は4月から東京に転勤することが決まっていましたが、彼女のサキが遠距離は無理だと言い出したのです。文菜は思わず聞きます。

「え? それってさ。それって、私が東京おることとも関係ある?」

「ああ、いや、さすがにそれは」

この一瞬の会話に、文菜の複雑な心情が表れます。自分の存在がサキの不安を煽ったのではないかという罪悪感と、同時に「さすがにそれはない」と否定される寂しさが混在しています。

「距離なんかで終わることなんて」――10年前の文菜の言葉が今、柴咲の口から

そして柴咲は、10年前の文菜の言葉を思い出します。

「高3の時さ。あん時は、俺が遠距離は無理かもって言って、文菜は、そんな距離なんかで終わることなんて、とっとったやろ。覚えとる?」

「覚えとるよ」

「あの時の文菜が、どういう気持ちだったんかはわからんけど、俺も今はそう思っとって。距離なんかって。でも、その気持ちをどう伝えたら説得できるんかわからんくて」

10年前、文菜が柴咲に対して抱いていた想い――「距離なんかで終わることなんて」。その言葉が今、柴咲の口から語られることで、二人の立場が完全に逆転したことが明確になります。

文菜は柴咲に、様々な角度から質問を投げかけます。

「え、柴崎が残るっていうのはあり得んのよね」

「俺がこっちに? それはないかな」

「え、東京じゃなきゃできんことなん? 柴咲の今の仕事って。建築士って資格あるんやろ?」

「まあ、資格はあるけど」

「彼女よりも?」

「いや彼女よりもって。比べることじゃないよ」

このやりとりで、文菜は10年前の自分と柴咲の会話を思い出します。

「え、この話、高校の時したな。逆やけど、俺と東京の大学どっち取るん? って。え、最低だな」

柴咲自身が、当時の自分の言動を「最低」だと認識していることが、彼の成長と後悔の深さを表しています。

「私たちの時のこと、使っていいよ」――文菜が贈った言葉の重み

柴咲はさらに続けます。

「遠距離ってそんなに難しいのかな。物理的に会えんとか。近くに住んどるとか。そんなことで恋に落ちたり、別れてしまったり」

「なんかね、本当はもっともっときちんと心で繋がっとって、信頼があればって思うんやけどね」

「俺、そんなに信じてもらってないんかなって思ったら、ちょっと虚しくなってしまって」

この柴咲の言葉は、10年前の彼からは考えられないほど成熟したものです。そして彼は続けます。

「俺、文菜と別れたこと、あの後ずっと後悔しとったし。もう嫌なんやよね。距離に負ける」

この告白に、文菜は静かに答えます。

「その思いを正直に伝えてみたら。いや、使っていいよ。我々の時のこと」

「ん、ど、どういうこと?」

「いや、実は昔ねって。遠距離にビビって、試しもせずに別れた彼女がおったんやって。だからあなたの気持ちはすっごくわかるんやって。試しもせずに別れてしまった。でも、もしかしたら、別れずに続けられていたのかもしれん。距離に負けない自信が今の俺にはあるんだ。だから信じてほしい、みたいなこと、伝えてみたら?」

この文菜の提案は、非常に複雑な感情から生まれたものです。10年前の自分たちの失敗を、今の柴咲とサキの関係に活かしてほしい。そして同時に、自分たちの時間が「無駄ではなかった」と思いたい気持ちも含まれています。

「私たちがうまくいかんかった時間がさ。なんか、今の彼女との関係にプラスになるんやったら、こんな嬉しいことはないよ」

この言葉には、文菜の優しさと同時に、自分自身への言い聞かせのような響きがあります。

過去の失敗をプラスに変える文菜の優しさ

文菜のこのアドバイスは、視聴者の心を打ちます。なぜなら、普通なら元カレの新しい恋愛を応援するのは複雑な気持ちになるはずなのに、文菜は自分たちの過去をむしろ「使ってほしい」と言っているからです。

この態度には、文菜の成熟と同時に、彼女が抱える諦めや喪失感も表れています。自分と柴咲の恋愛は「もう過去のもの」であり、それを次に繋げることでしか意味を持たせられないという、少し悲しい現実認識が含まれているのです。

「色々嘘もついてしまった」――弟に打ち明ける複雑な心情

帰宅後、文菜は弟・拓也と話します。

「色々嘘もついてしまった」

この「嘘」とは何だったのでしょうか。おそらく、柴咲に「幸せ?」と聞かれて「うん、おる。幸せやよ」と答えたこと。そして、自分が本当に幸せなのかどうか、文菜自身が確信を持てていないことが、この言葉に表れています。

また、ナレーションでは柴咲とサキのその後が語られます。

「柴崎とサキちゃんは、その後二人での話し合いの場が持たれ、ひとまず別れたりせず、遠距離でもやっていこう、それでダメだったら、その時は別れよう、という話になったらしい」

「柴崎が私たちの話をしたかどうかは曖昧にされた。下手に嫉妬されるのも違うし、文菜とサキは別の人間だしね、と柴咲は言った。でも、ありがとう、とも言った」

文菜の提案が、柴咲とサキの関係を救ったことは確かです。しかし同時に、文菜の「嘘」や複雑な心情は、視聴者に深い余韻を残します。

東京に戻った文菜が向き合う自分自身の変化

東京に戻った文菜は、日常に戻ります。しかし、地元での出来事は彼女の心に深い影響を与えています。

エンちゃんとの会話で浮かび上がる「触れたい欲」と「心の繋がり」

古着屋の同僚・エンちゃんとの会話で、文菜は遠距離恋愛について改めて考えます。

「うーん、遠距離ね」

「遠距離で一番きついのって、触れ合うことができないことなんかな」

「うーん、どうだろう。ま、それだけじゃないと思うけどね。ただ、会いたいとかもあると思うけど。一緒にご飯食べたいとか」

「うん。まあでも、性欲とか、触れたい欲も大きいと思うんだよね」

このエンちゃんとの会話は、遠距離恋愛の本質を突いています。そしてエンちゃんは、ロマンティックアセクシュアルの友人・レーナの話を持ち出します。

「レーナがね、『私にとって、遠距離ってまあまあ理想的なんだよね』って言ってて」

「え、それは、触れられずにいられるから?」

「まさに」

「逆なんだよね。そりゃ、遠距離は寂しいけど、でも触れたりとか、キスとかがなくて、でも心は繋がってて、ってなんかいうのが、一番いいっていうか」

この会話は、柴咲が言っていた「本当はもっともっときちんと心で繋がっとって、信頼があれば」という言葉と響き合います。しかし同時に、文菜が今の恋愛でそれを実現できているのかという疑問も浮かび上がります。

山田線の言葉「心がでこぼこしてる土田さんにしかない魅力」

そして文菜は、浮気相手の山田線と電話で話します。文菜が柴咲と会ったことを伝えると、山田線は言います。

「なんかね。なんか高校の後輩の子と付き合ってるんだけど、彼女のことすっごい大切にしてて。そう、で、なんか今でもかなりまっすぐでね。まっすぐ、っていうか純粋? で。で、なんか、色々考えちゃった」

「今の自分と比べたり?」

「うーん、比べたりもだし」

「私はいつからこんな風になっちゃったんだろうな、みたいな?」

山田線は文菜の気持ちを察し、こう答えます。

「俺は。今の土田さんには今の土田さんなりの魅力があると思うけどね。まっすぐに、何の後ろめたさもなく生きてたら、それはそれで魅力的だったとは思うけど。今のさ、悩んでて、ちょっと生きにくそうで、心がでこぼこしてる土田さんにしかない魅力もあると思うけどね」

この山田線の言葉は、文菜を肯定しているようで、同時に文菜の「変化」を認めている言葉でもあります。文菜がもう「まっすぐで純粋」ではなくなってしまったこと。それを「魅力」として受け入れてくれる山田線の優しさと、同時にその言葉が持つ皮肉さが交錯します。

「逆はなかったの?」――山田線の問いが刺さる理由

そして、美容師の小太郎との会話では、さらに核心を突かれます。

「え、ってかちょっとむくんでない? あなた。正月太り?」

「は? 最低なんだけど」

「いや、違う違う。なんか大丈夫かなって」

この小太郎の言葉は、文菜の外見だけでなく、彼女の心の状態を心配しているようにも聞こえます。

そして小太郎と居酒屋にいると山田線から電話がかかってきます。元彼と会った事を打ち明けると、山田線は文菜に問いかけます。

「え? 逆はなかったの?」

「逆?」

「うん。なんか、その地元の彼の感じに物足りなさを感じるとか、ちょっと幼く感じたりとかは?」

「本当に嫌だ」

「あ、あるか」

「ねー、本当に嫌だ。なんで?」

「いや、なんかそんな気がした」

「まあ、ちょっとね」

この会話が、文菜の本音を浮き彫りにします。柴咲の「まっすぐさ」や「純粋さ」に対して、文菜は少し「物足りなさ」を感じていたのです。それは、文菜自身が変わってしまったこと、そして柴咲とはもう「合わない」存在になってしまったことを意味しています。

ラストのモノローグが告げる文菜の喪失――「柴咲とはだいぶ違う恋愛」

第3話のラスト、文菜は酔っぱらってゆきおの家に帰ります。ゆきおとの時間は穏やかで、優しく、安定しています。しかしそこに、文菜のモノローグが重なります。

「東京で暮らす私は、柴咲とはだいぶ違う恋愛をしている。恋愛だけじゃなくて、生活とか、生き方とか。幸せについての考え方も、もうまるで違うのかもしれない」

このモノローグは、文菜の「喪失」を静かに告げています。柴咲が持っている「まっすぐさ」「純粋さ」「信頼」といったものを、文菜はもう持っていないのかもしれない。そして、柴咲が「距離なんかで」と言える自信を、文菜は今のゆきおとの関係で持てているのかという疑問が残ります。

第1話から描かれてきた文菜の「複数の元カレとの関係を引きずる」姿勢や、「距離感」を保つ恋愛のスタイルは、もしかしたら彼女が「傷つかないため」に身につけた防衛機制なのかもしれません。柴咲のように「全力で信じる」ことができなくなった文菜の変化が、このラストのモノローグに凝縮されています。

6. まとめ

今回の見どころ・伏線

  • 「遠距離にビビって、試しもせずに別れた」過去の暴露 – マサオの酔った勢いの告白が、文菜と柴咲の過去を赤裸々に語る。10年経っても消えない後悔の重さ。
  • 立場が逆転した元カレの悩み相談 – 今度は柴咲が遠距離に悩む立場に。「距離なんかで」と言えるようになった柴咲の成長と、それを複雑な気持ちで聞く文菜。
  • 「私たちの時のこと、使っていいよ」文菜の優しさと諦め – 過去の失敗を次に繋げることでしか意味を持たせられない文菜の寂しさが滲む名シーン。
  • 「心がでこぼこしてる土田さんにしかない魅力」山田線の言葉の皮肉 – 文菜を肯定しているようで、彼女の「変化」を認めている複雑な優しさ。
  • 「逆はなかったの?」山田線の問いが刺さる理由 – 柴咲に「物足りなさ」を感じた文菜の本音。もう戻れない過去との決別。

ラストのモノローグ「柴咲とはだいぶ違う恋愛」が告げる喪失 – 文菜が失ったもの、変わってしまったものを静かに告げる余韻の残るエンディング。

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