第23週に入った朝ドラ『ばけばけ』の第115話、正直この回は朝から気持ちが持ちませんでした。
錦織友一(吉沢亮)がヘブン(トミー・バストウ)に向かって松江の橋の上で放った言葉の数々──冷たく、鋭く、それでいてこれ以上なく愛に満ちた「焚きつけ」の一部始終。そしてその数ヶ月後、静かにこの世を去った錦織が、ヘブンの新著の扉ページに残した献辞を読んで見せた”あの笑顔”。視聴後も何度も思い返してしまう、そんな回でした。
「ばけばけ」第23週第115話 あらすじ
松江を訪れたヘブンは、橋の上で錦織に「何をうろたえているんですか?何も感じなくなってしまったからじゃないですか」と問い詰められる。錦織は「今のあなたには、もうこの国で何も感じることができない。何も書くこともできない」と厳しい言葉をぶつけながら、実は日本人化を阻止しようとしていた。「リテラリーアシスタントとしての最後の仕事だ」と語る錦織の焚きつけによって、ヘブンは奮起し熊本で執筆を再開。「書けちゃった」と喜んだ直後、ナレーションが静かに告げる。数ヶ月後、錦織はこの世を去った──。ヘブンの新著『東の国から』の扉に記された献辞「出雲時代の懐かしい思い出に。錦織雄一へ」を読み、錦織がやっと見せた笑顔に涙が止まらない第115話です。
錦織(吉沢亮)の「焚きつけ」── 橋の上で繰り広げられた究極の友情
第115話を見終わった直後、まず頭に残ったのは松江の橋の上で錦織が放った言葉の数々でした。
冒頭、橋の欄干に立つヘブンに、げっそりと痩せた錦織が歩み寄ります。
「何をうろたえているんですか?何も感じなくなってしまったからじゃないですか。かつてあれほど心動かされたこの景色に。違いますか?ヘブンさん。」
ヘブンがあの景色を前に動揺していた理由を、錦織はひと言で射抜いてみせました。日本人への帰化を目前にしたヘブンが口にしたのは「私、ヘブンない。八雲、雨清水、八雲」という言葉。アイデンティティの揺らぎをそのまま吐き出したような、切実な台詞でした。
「何をうろたえているんですか?」── 鋭い問いかけの裏にある愛
錦織の言葉はそこから容赦なく続きます。
「本当にいいんですか?日本人になるということは、もうこの国でしか書くことができないということですよ。聞いてますか?ヘブンさん。」
ヘブンは「怒ってる。だから力貸してくれない」と返しますが、錦織は静かに、しかし確実に否定します。
「本当にそう思ってます? 本当はわかってるんじゃないですか。 私が怒ってなどいないこと。 私が知事に掛け合わないのは、あなたの才能、作家としての人生を終わらせたくないからだということを。」
この一言で、錦織がなぜ帰化の手続きに協力しなかったのかがすべて明らかになりました。怒りではなく、愛。冷たさではなく、保護。その構造が、吉沢亮の抑制の効いた表情と声のトーンで静かに伝わってきて、じわじわと涙腺に来ます。
「日本でも書けない、海外でも書けない」── 現実を突きつけた理由
さらに錦織は、熊本移住後のヘブンの著作をすべて読んでいたことを明かします。
「勝手ながら熊本に行ってからの著作、全て拝読しています。 そして、そのどれも失礼ながら日本滞在記のような輝きがない。 聞けば、おトキさんに手伝ってもらってどうにか書いているというじゃないですか。 正直に言いましょう。 今のあなたには、もうこの国で何も感じることができない。 何も書くこともできない。 幻想を見ていた。 日本という国に夢を見ていた。 だが、もうその夢から覚めてしまった。」
これを聞いたトキが「そういう言い方」とかばうように口を挟みますが、錦織はさらに踏み込みます。フィリピン行きの話があったことまで知っており、「フィリピン滞在記、きっと日本滞在記と同じ、いや、それ以上のものが書けたんじゃないでしょうか」と言い切る。
「日本人になるということは、つまり、日本でも書けない、海外でも書けない。」
トキが「私のせいです。ごめんなさい」と声を震わせますが、ヘブンは「ノン、ノン、ノン、ノン、ノン。ママさん違います」と首を振ります。この場面だけで、ヘブンがどれほど深くトキを愛しているかが一瞬で伝わってきました。
「書ける。書ける。」── ヘブンの奮起と吉沢亮の神演技
錦織の言葉が最も鋭く刺さったのは、この後の攻防だったと思います。
錦織がトキに向かって「おトキさん。無理を承知でイギリス人にはなれないだろうか」と問いかけると、ヘブンは「大丈夫、大丈夫。日本でも書ける」と返します。
錦織はすかさず「無理ですよ」。 ヘブン「必ず書ける」。 錦織「あなたはもう何も」。 ヘブン「書ける。書ける。」
この短い言葉のやり取りが、第115話で最も視聴者の感情を揺さぶった場面だったのではないでしょうか。錦織役の吉沢亮が削ぎ落とすように冷淡に言い放つ「あなたはもう何も」に対して、ヘブンが絞り出すように繰り返す「書ける。書ける。」──ここで画面の前でこらえきれなくなった方が多かったはずです。
SNSでも「吉沢亮の神演技」「国宝の演技は素晴らしかった」という声が朝から殺到していました。瘦せ細った体、かすれた声、それでも眼光だけは鋭い。吉沢亮が体で表現した錦織の”鬼気迫る姿”は、確かに朝ドラの枠を超えたものがありました。
焚きつけられたヘブンは「All right! I’ll show him」と自分自身に言い聞かせ、その場を立ち去ります。橋という場所が「イギリス人と日本人の境界線」であり、同時に「生と死の境界線」でもあるような、不思議な緊張感が漂うシーンでした。
「書けた」── 錦織の焚きつけが実を結んだ瞬間
場面は熊本に移ります。ナレーションが「熊本に戻ったヘブンさんは、なおも一心不乱に書き続けました」と告げると、しばらくして──
「ママさん。ママさん。書けた。」
ヘブンが飛び込んできて、興奮したまま寝ている息子の司之介をナチュラルに跨いでいくシーン。視聴者の間で「ここで笑ってしまった」という声が多かったのですが、本当にこの場面は絶妙なホッとしどころでした。橋の上の息詰まる対決から一転、家族の温かな空気が流れてくる。ドラマとしての呼吸の上手さを感じます。
トキの「ご苦労様でした」という言葉に、ヘブンは「錦織さん、きっと驚くでしょう」と返します。
ところが、「いいえ。驚かないと思います」とトキ。そしてこう続けます。「これなもんが今、無事、雨清水の戸籍、三人とも入った。」
戸籍のことも、ヘブンが「書けた」ことも──すべて同じ日に重なった。
錦織に向かって「江藤さん、OK?」と確認するヘブン。「はい」という答えの後、「錦織さん」と呟きます。焚きつけたあと、ヘブンが執筆している襖越しにトキの隣に錦織が現れ言います。
「これで書けるといいが。」
そしてひと呼吸おいて、錦織は明かします。
「たきつけたんだ。リテラリーアシスタントとしての最後の仕事だ。あの人は本当に世話が焼ける。思い出すな。初投稿のあの日、ここで君と天の岩戸を開けたな。」
「最後の仕事」。この言葉が出た瞬間、橋の上での言葉の意味がすべて繋がりました。あの容赦ない”焚きつけ”は、作家としてのヘブンへの最後の贈り物だったのです。
「大丈夫ですか?お水かなんか持ってきます」と気遣う声に、錦織は即座に切り返します。
「シャラップ。執筆中だ。静かにしないと怒られるぞ。」
涙をこらえながら笑ってしまう、このセリフ。錦織らしさが凝縮された一言でした。
錦織の最期と「出雲時代の懐かしい思い出に」── 献辞に込められた永遠
そしてナレーションが静かに告げます。
「数ヶ月後。錦織さんはこの世を去りました。」
ヘブンの手元に届いた新著の扉ページを開くと、英文の献辞がありました。
「To Nishikori Yuichi. In dear remembrance of Izumo days.」
トキが日本語に訳します。
「出雲時代の懐かしい思い出に。錦織雄一へ。」
この献辞を読んだ錦織が見せた”あの笑顔”──SNSには朝から「最後の笑顔がやっと見られて本当に良かった」「献辞のとこ何度も何度も読み返したんだろうなって」という声があふれていました。視聴後もしばらく経ってから涙目になる、という声も多く、それだけこのシーンが深く刺さったのだと思います。
実はこの献辞、ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)が実際に親友・西田千太郎(錦織のモデル)へ贈った著作の扉文をそのまま使ったものです。史実の言葉がドラマの中でこれほど自然に生きるとは──脚本家の判断に唸りました。
橋の上でヘブンを「あなたはもう何も」と追い詰めた錦織が、最後にこの一枚の献辞ページで完全に報われる。構成として美しすぎる回でした。
次回予告|いよいよ「あの作品」へ── ばけばけ残り10回の最終章
予告でヘブンが「あの作品」に着手する様子が映り、トキが「では…」と語り始めます。
「次回いよいよね。」「ええ、いよいよよ。」「では。」
この短いやり取りが次回への幕引きとなっていましたが、SNSでは「耳なし芳一」への伏線回収を期待する声が急増していました。第1話のあの場面と物語の輪が閉じていくことへの期待感と、錦織ロスの切なさが混ざり合い、「朝ドラ史上トップクラス大好きな作品」という声も多く見られました。
残り10回。ヘブンが書き続けた先に何があるのか、最終章が本格的に動き出します。
まとめ|第115話の見どころ・伏線まとめ
- 錦織の「焚きつけ」の真意── 冷淡に見えた言葉の裏には、ヘブンの才能と人生を守ろうとする愛があった。「リテラリーアシスタントとしての最後の仕事」という告白がすべてを語る
- 「書ける。書ける。」の攻防── 錦織の「あなたはもう何も」に対してヘブンが絞り出した言葉が、吉沢亮の神演技と合わさって最大の感情爆発ポイントに
- 橋という場所の象徴性── イギリス人と日本人の境界線であり、生と死の境界線でもある。この演出が錦織の死の予感を静かに漂わせていた
- 献辞「出雲時代の懐かしい思い出に。錦織雄一へ」── 史実の扉文をそのまま使用。これ以上の言葉はないと感じさせる完璧な締め方
- 錦織の「最後の笑顔」── 使命を果たした安堵と達成感が混ざった表情。「やっと見られて本当に良かった」という視聴者の声が物語る感動の重さ
- 次回予告の「では…」── トキの語りが始まる。耳なし芳一との伏線回収を匂わせる次回、残り10回での完結に向けて物語は最終局面へ
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