2月26日放送のNHK連続テレビ小説『ばけばけ』第21週「カク、ノ、ヒト。」第104話は、この朝ドラが持つ「怖いのに笑える、笑えるのに泣ける」という魅力が凝縮されたような15分間でした。
今回のキーパーソンは、熊本の田舎に暮らす吉野イセ(芋生悠)。呪われていると噂される彼女が、ついに重い口を開いて語り出した「人形の墓」の話。10歳の頃に両親を相次いで亡くし、言い伝えを守らなかったばかりに兄も、そして自分自身も不幸の連鎖に巻き込まれてきたという壮絶な告白でした。
それを聞いたトキ(髙石あかり)がとった行動が、今回最大の見どころです。イセが立ち上がろうとした瞬間、さっとその座布団に腰を下ろして「これで私に呪いは乗り移った。だからこれからはええ事があります」と宣言し、そのまま倒れてしまうのです。視聴者からは「笑えるけど泣ける」「おトキちゃんの良いところが全部出た」という声が続出。そして夜、ヘブン(トミー・バストウ)がわら人形を差し出しながら放った「あなた、言葉。あなたのお考え、私、必要」のひと言が、夫婦の絆を静かに輝かせました。
「ばけばけ」第21週第104話 あらすじ
ヘブンの書き物のヒントを求めて松野家に集まったイセとモキチ(村上茂吉)。しかし「嘘をつくと蛇になる」「秋茄子は嫁に食わすな」など提案する言い伝えはどれもヘブンが知っており、場の空気は気まずくなる一方でした。そこでトキが切り出したのが「おイセさんが呪われている」という話。モキチから促されたイセは、ついに自分の過去を語り始めます。10歳の頃、父母が相次いで病で亡くなり、「人形の墓」を作らなかった兄もまた亡くなり、大病・借金・身内からの孤立という呪われた人生を今も歩んでいると。そのあまりにも切ない告白を聞き、トキはイセの温もりが残った座布団に座って呪いを引き受け、興奮のあまり倒れてしまいます。その夜、ヘブンはわら人形をトキに渡し「これで呪いは死にました」と締めくくりました。
「これで私に呪いは乗り移った」──おトキちゃんが見せた最高の優しさ
104話でいちばん頭に残ったシーンを挙げるとしたら、やはりこれしかないと思います。イセ(芋生悠)が重い告白を終え、「呪われる前に塩撒いてお清めしてください。失礼します」と立ち上がった瞬間、トキ(髙石あかり)がイセの座っていた座布団にすっと腰を下ろしたあのシーン。
何の前置きもなく、ごく自然に、まるで前からそこに座っていたかのように。でも、その行動の意味を理解した瞬間、目頭が熱くなりました。
イセの座布団に座った理由は「ヒトのヌクモリ」の怪談
トキがなぜあの座布団に座ったのか。それは「ヒトのヌクモリ」をめぐる怪談──人が座った温もりが残る場所には、その人のケガレが宿るという言い伝えを実践してみせたのです。呪いが「ケガレ」として伝染するなら、自分がそれを引き受けることでイセを解放できる、そういう発想でした。
トキにとって呪いは恐ろしいものではなく、研究対象であり、体験したいものです。でも今回は、それだけじゃなかった。イセがどれだけ重たいものを背負って生きてきたかを聞いた後だから、トキのあの行動は「優しさ」そのものでした。理屈ではなく、体で示した思いやりです。
「ゾクゾク。来た来た来た!感じちょる」──倒れる直前の台詞が話題に
座布団に座ったトキが発した言葉がまた絶妙でした。
「馬鹿になど。むしろ、うん、信じちょります。うん、信じちょるけん。こう、呪われるとか、楽しくて、ゾクゾクします」
「ゾクゾク。来た、来た来た!来た!感じちょる。こんなに重たいんだ。頭が痛ッ!」
呪いを引き受けながら「楽しい」と言う。その言葉の裏に、呪われた人生を送ってきたイセへの共感と、見えないものへの敬意が混ざり合っている。コミカルに見えて、深いのです。
そしてトキはイセに向かってこう言います。
「おイセさん。不幸せ。わたしに乗り移ったけん。これからはきっと、ええことある。昔はわたしも、ええことなかった。だけど、今は、ええこといっぱいある。だっけ?ね。うおーほほほ!」
自分にも不幸せな時代があったと打ち明けながら、イセに「ええことある」と伝えるこのセリフ。笑えるのに、ちゃんと泣けます。そのまま手を震わせながらぱたりと倒れるトキに、視聴者からは「倒れたのはご懐妊ではなかったですわね」というツッコミが相次ぎましたが、実際は呪いの体験と興奮によるものでした。
おイセが語った「人形の墓」──その切なすぎる人生の真相
イセが口を開くまでに、ずいぶん時間がかかりました。モキチ(村上茂吉)が「話ばして差し上げたらどぎゃんやら」と促しても、イセは「わってん、あの話は」と渋るばかり。でも最終的に、深呼吸するように、こう切り出しました。
「それでは、人形の墓というものはご存知でしょうか」
「一軒の家で、一年のうちに二人死ぬと」──言い伝えの全貌
ヘブンもトキも「知らない」と首を横に振りました。でも意外なことに、クマ(夏目透羽)が「私は、聞いたことがあります」と答えたのです。熊本ならではの土地の言い伝えであることが伝わってくる、さりげない演出でした。
イセが語った言い伝えはこうです。
「村には一軒の家で、一年のうちに二人死ぬと、すぐに三人目が死に…四人目から先は、たとえ生き延びたとしても、呪われた一生を過ごすという言い伝えがあり、藁人形を入れた人形の墓と言われる小さな墓を作れば、それが避けられると言われとったとです」
わら人形を箱に入れて埋める「人形の墓」が、呪いの身代わりになるというこの風習。単なる迷信かもしれないけれど、当時の人々がどれだけ連続死を恐れ、せめてもの手段として信じていたかがにじみ出ています。
兄が言い伝えを無視した結果、不幸の連鎖が始まった
イセは続けます。
「兄と私は、そぎゃん話、迷信だと聞かす人形の墓は作りませんでした。ばってん。兄も亡くなり、残された私は慌てて藁人形を拵え、人形の墓を作りましたが、もう遅かったとですかね。大病にかかり、生死を彷徨い、借金に生活苦、頼る親戚にもお荷物扱いをされ、家を出され、周りからは言い伝え通り呪われたんだと避けられ、今まで生きてきました。すみません。身も蓋もなか話で」
10歳で父を亡くし、まもなく母も。兄は「迷信だ」と言い放って人形の墓を作らず、その兄も亡くなる。ようやく人形の墓を作ったイセだったが、時はすでに遅かった──。
理不尽に次ぐ理不尽。でも、それを「自分が呪われているせい」と飲み込んで生きてきたイセの言葉には、怨みよりも静かな諦めが滲んでいて、芋生悠さんの抑えた演技が語りの重さをさらに増幅させていました。
ヘブンのわら人形が示した夫婦の絆──「あなた、言葉。あなたのお考え、私、必要」
その晩、ヘブン(トミー・バストウ)はトキにわら人形を差し出します。
「不幸せ呪え。うつる、しました。あなた、言葉。あなたのお考え、私、必要。もっと、もっと願います」
「これで呪いは死にました」という意味を込めたわら人形を、ヘブンはずっと大切に持っていたのでしょう。トキが体を張って吸い取った呪いを、自分のわら人形で終わらせる。書き物のための収集家でありながら、妻への愛情をこの形で示すヘブンの行動は、派手ではないけれどじんわりと心に沁みてきます。
そして「あなた、言葉。あなたのお考え、私、必要」というひと言。ヘブンが求めているのは単なる怪談のネタではなく、トキという人間の感性であり、心であるという告白でもあります。視聴者の間でも「このシーンが今週のMVP」という声が複数上がっていて、夫婦の信頼関係がさりげなく深まった瞬間として語られていました。
ぶっちゃけ怖かった周囲の反応──モキチ・クマ・司之介が一斉に距離を取る場面
104話の笑いのツボは、イセが話し始めるやいなや、モキチ・クマ・司之介(岡部たかし)が競うようにそっと距離を取るシーンです。
モキチは「呪われたくないからなと」と言い訳しながら部屋の隅へ。クマも「人形の墓」を知っているだけに、静かに一歩引いて壁際へ。そして司之介も、気がつけばじりじりと離れている。
「近くにおって呪われたらたまらん。これはまことの呪いの話だけべ」
司之介は疫病神と自称している人物なのに、それでも呪いから逃げようとする。そのコミカルな矛盾が笑いを誘いつつ、「迷信と分かっていても怖い」という人間の本能的な反応として妙にリアルで、視聴者も「隣の部屋に行っただけで避けられる呪いなの?」とツッコミながら楽しんでいました。
小泉八雲の原作「人形の墓」との史実比較──朝ドラのアレンジはここが違う
今回のエピソードは、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)が1897年に著した短編「人形の墓」を下敷きにしています。原作は八雲の家で働く少女イネ(史実のモデルはお梅)が八雲夫妻に自身の過去を語る物語で、構成そのものはドラマと非常に近いです。
ただし、いくつかの重要な違いがあります。原作では、話を聞いた八雲自身が少女の座った場所に座り「呪いを自分が引き受ける」と宣言します。つまりドラマでは、八雲にあたるヘブンではなくトキがその役割を担っているのです。これはヒロインの「呪われたがり」というキャラクター性を生かした、とても巧みなアレンジといえます。
また、「人形の墓」の風習は熊本・阿蘇地方に実在した葬送習俗で、民俗学者の柳田國男が著書でも記録しています。「一家に続けて死人が出ると、わら人形を棺に入れて身代わりにする」というこの風習が、理不尽な不幸を「呪い」として受け入れ、せめて儀式で防ごうとした時代の切実な祈りであったことが伝わってきます。ドラマがそのエッセンスをきちんと受け継ぎながら、現代の視聴者にも響く物語に昇華している点に、脚本の丁寧さを感じます。
ヘブンが最後にわら人形を差し出すシーンは、原作の八雲が体験談を経てそれを作品として結晶化させた過程と重なります。「ツウヤクイラナイ、ジブンノコトバデ」という今回のセリフが示す通り、ヘブンにとって本当に必要なのは通り一遍の怪談ではなく、体で感じ、言葉で表現できるトキのような存在──その再確認でもあった104話でした。
まとめ──104話の見どころと今後への伏線
- おイセの「人形の墓」告白:10歳から始まった不幸の連鎖が、静かな語りと芋生悠さんの抑えた演技で胸に突き刺さりました。
- トキが座布団に座った意味:「ヒトのヌクモリ」の怪談を実践しながら、イセの呪いを自ら引き受けた優しさの一手。
- 「ゾクゾク。来た来た来た!」からの倒れる:呪われたがりのトキが全開になった笑えるシーンでありながら、その裏にある共感と敬意が泣ける。
- ヘブンのわら人形「あなた、言葉。あなたのお考え、私、必要」:夫婦の絆がさりげなく深まった今週最大の名シーン。
- 「ツウヤクイラナイ、ジブンノコトバデ」の復活:松江怪談システムの再起動を予感させる伏線として視聴者が熱く注目中。
- 小泉八雲の原作「人形の墓」との接続:史実の風習と八雲文学がドラマの物語に静かに流れ込んでいる構成の巧みさ。
残り21話。トキとヘブンが熊本でどんな言葉を集め、どんな物語を紡いでいくのか──引き続き見届けたいと思います。
6. まとめ(箇条書き・見どころ&伏線 5〜6個)
- 「人形の墓」の言い伝えと史実の風習が交差する、今週随一の怪談回
- おイセ(芋生悠)の抑えた語りが恐怖と悲しみを同時に演出
- トキが自ら座布団に座って呪いを引き受ける行動の優しさと笑いのミックス
- 「ゾクゾク。来た来た来た!感じちょる」から倒れるまでのコミカルな流れ
- ヘブンがわら人形で呪いを「終わらせた」夫婦の静かな信頼シーン
- 「ツウヤクイラナイ、ジブンノコトバデ」に込められた松江怪談システム復活の予感
記事内のセリフはすべて第104話の音声をもとにしています。
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